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雑記~愛息と過ごす日々の戯れ言~

雑記~愛息と過ごす日々の戯れ言~

講演会「最近の小児がん治療について」

最近の小児がん治療について

 血液腫瘍科 科長 兼 副部長 K先生
 日時:平成22年5月15日土曜日
 会場:小児医療センター・会議室

<自己紹介>
 個人情報になるので、省略します。

 現在の主な役職 JPLSG委員長・ALL委員会委員・B前駆型ALL研究責任者
「ALLの治療プロトコル、全国統一化」をライフワークと考えている。 

<病院スタッフ(血液腫瘍科)紹介>
  副院長 H 先生
  科長  K 先生
  副部長 N 先生(4月より)
      九州がんセンターに勤務され、その世界では重鎮といわれる、実績のある先生で、なぜここに?と疑問視されたほど。
  医長  Ka 先生
      研究者として、大変優秀な方。
      4年間の研究成果が「ネイチャー」に掲載されたが、臨床を希望されている。
  レジデント G先生 M先生 A先生 
        T先生 S先生 (今年4月から)
      「自分から望んで、この病院で学びたい、という意欲的な先生方である」

<診療実績>
 〇毎年20名位の移植実績・・・国内4番目くらい。
 〇全国の血液腫瘍科のある病院の中では、5年間、毎年20名以上の患児(白血病・悪性リンパ腫)を診ている、日本一、多くの症例がある病院。
  次点は、静岡こどもセンター。
 〇入院患者数 40~50人 外来患者数 10~40人/1日当たり
  小児血液疾患、血液がん(白血病・悪性リンパ腫)については、国内で最も患者数が多い。
  おそらく、固形腫瘍についても同様と思われるが、正確な統計データがない。
  JPLSGの、臨床試験の登録数、日本一。
  移植症例数 15~25件/年
  小児がんについては、およそ日本全体の1/30、埼玉県内の1/3強の患者さんを診療している。


<目 標>
 1.質の高く安全な治療   新しいものに飛びつくのではなく、吟味して取り入れていく。
 2.地域への貢献  県内で血液腫瘍に対応できる病院は、数箇所ある。
 県南部では、東京の病院にかかる場合もあるが、当院は、県内最後の砦(ラストキーパー)としての役割を果たしたい。
 まれに、どうしても断らざるを得ない場合があることを、残念に思う。
 3.対外的な発信・・・患者数が多いので、症例が豊富
 4.全国共同研究への貢献
 5.早期臨床試験の推進・・・新しい薬が日本では使えない(ドラッグラグの解消)
 6.看護も医療者もQOLの良い医療・・・昔は家にも帰らず、泊り込みで患者を診るのが良い医者というイメージがあったが、寝不足・過労状態では、判断力の低下、誤った判断を招きかねない。必要な休みを取りつつ、勤務することが望ましい。



<小児がんの疫学(1)>

 ・日本では、1年間に約2000人が発症 (ただし、15歳以下なのか18歳以下なのか、というデータは不明)
 ・米国では、成人に達した人の1000人に1人は、小児がん経験者
 ・おそらく小児全体の1000~1500人に1人くらいが、小児がんになる。
 ・1歳以上の小児の死亡原因の第2位(1位は、不慮の事故。1歳未満は、先天的な病気、心臓病などが多い)


<小児がんの疫学(2)>

 小児がんの種類としては、
  1番多い 白血病(31%)
  2番目  脳腫瘍(20.4%)
  3番目  神経芽腫(13.1%)
  4番目  悪性リンパ腫(7%)

  その他 胚細胞性腫瘍、肝腫瘍(肝芽腫)、腎腫瘍(腎芽腫)、骨腫瘍(骨肉腫)
  軟部腫瘍(横紋筋肉腫、ユーイング肉腫)網膜芽腫、など
 
 成人と比較した小児がんの特

 ・成人に多い上皮性のがん(いわゆるキャンサー・Cancer:胃がん、大腸がん、肺がん、乳がんなど)は少なく、本来正常細胞になるべき未熟な細胞が悪性化したものが多い。
芽腫(ブラストーマ・Blastoma)、肉腫(Sarcoma)など。
・ 化学療法や、放射線療法が効きやすい。
治療の主役は、化学療法。
最初に手術で取りきれなくても、化学療法で小さくした後に取れることも多い。
・一方、成人のがんでは、手術が主役で、最初に取りきれないと、なかなか直せない。手術をしてから、補助的に化学療法をするが、がん細胞が取りきれなかった場合、あまり効果が見込めない。
・小児のがんは、40%が、白血病など血液系で、科学療法が効きやすい。

小児と成人との悪性腫瘍の比較

    悪性腫瘍     0―14歳   全年齢
   白血病・悪性リンパ腫 41.0   6.0
   肉腫      27.0   3.0
   胎児性腫瘍      16.0   1.0
   神経性腫瘍      6.0   2.0
   がん腫、腺がん 5.0   85.0
   その他      5.0   3.0
   症例数      2248   45311
   症例数中の小児の数 2248   594

別所文雄ら編 「新小児がんの診断と治療」
(小児がんの診断と治療社)より引用     

        ・・・すみません。ワードでは、表にしたのですが、タグが不勉強なので。

 小児期の主な腫瘍の年齢別発生率
  1歳ぐらいまで ナントカ芽腫 ブラストーマが多い
  1歳~5歳 白血病のピーク
  10歳~  肉腫が増えていく。


<治療について>
 ・手術、化学療法、放射線療法の三本柱
 ・科学療法が主役で、成人と比較しても強力な科学療法が行われる。
  (大人が同じ治療をするとしたら、耐えられないくらい、強い治療である。)
  合併症の管理が大事。
  現状、専門医のいない病院でも、科学療法が行われているが、専門医が行うべき。
 ・治すことが難しい例では、造血幹細胞移植を行う。
 ・治癒率は、年々向上していて、現在では最終的に約70%の患者さんが、最終的に治癒する。

白血病 LEUKEMIA

骨髄から発生する造血器由来
                急性   慢性
リンパ性 (LYMPHOID)      ALL  CLL
非リンパ性 (NON-LYMPHOID) AML  CML
 (主に骨髄性MYELOID)           

発生の割合
小児       成人
ALL 70~75%  30~35%
AML 20~25%  40~45%
CML 2~3%    20~25%
CLL なし      <5%
    
 急性白血病(ACUTE)ある幼若で未分化な一種類の細胞が増えること。
   慢性白血病(CHRONIC)いろいろな分化段階の細胞が増えること。

白血病臨床症状
 正常な骨髄の機能が冒された時の症状は・・・
 ・正常な白血球が減るので  感染に弱い
 ・正常な赤血球が減るので  貧血になる
 ・正常な血小板が減るので  出血しやすい
         ↓↓
 発症した時には、全身に白血病細胞が広がっている。
 
100人のうち1人は、血液検査では異常を発見できない。
 骨髄検査が必要。

白血病の治療
 ・化学療法(抗がん剤、ステロイド)→正常組織へも影響が出る。
 ・放射線→頭の中には薬が届かないので、治療として、もしくは予防的に照射する。
 ・造血幹細胞移植→有力な治療法ではあるが、身体的、精神的負担が大きい。
          (必ず晩期障害が発生する。)

寛解と治癒
  目に見えるものが無い状態を寛解という。
  限界があるため、目に見えない細胞がある可能性もある。
  寛解に入って、その後予定された治療期間が、寛解を維持したまま終わり、
  治療後5年経過すれば治癒という。
 
  治療期間 ALL 2~3年  AML 1年以内(半年)
  例外的に、寛解に入らず治る場合もある。
  

治療について
  1. 寛解導入療法(6週間)
     ALLの寛解導入率は97%
     AMLの寛解導入率は85~90%
     成人の寛解導入率は 7割くらい

  2. 強化療法
     寛解の質を高める(約1年)
             AMLはここで治療終了

  3. 中枢神経予防療法
    MTX(メソトレキセート)大量投与
    髄注(薬剤を直接脊髄腔内に投与すること。ALLでは合計10回前後行う)

  4. 維持療法
    ALLの場合は飲み薬で行う(1~2年)


予後因子(予後…病気の治りやすさ)
 1.年齢
  0歳児のALLは治療が違う。難しい。            
  1歳以上では、年齢が若いほど、治癒率が良い。

 2.初期時白血球数
   ほか

 3.膜表面マーカー
   T細胞型
   B前駆細胞型
 4.染色体、遺伝子異常
 5.初期治療反応性

・小児の急性リンパ性白血病は、20世紀で、最も治療開発に成功したがんのひとつ。
 (但し、日本は、アメリカの5年遅れぐらい。)

   治りやすさに合わせて治療する

   層別治療
    3~4段階を決めて治療を行う
     ↓↓
    ALL 80~85%治癒
    AML 60~70%治癒
    (再発後治癒も含めて)



【 良くある質問 】
 「運動して、疲れたら再発する?」・・・×
 「多少の治療中断で再発する?」・・・×
 「安静にしていたら、再発しない?」・・・×

【 今後の課題 】
 ・治癒率の向上 70~75%の現状を、80%はクリアしたい。
 ・より負担の少ない治療。入院期間の短縮。
 ・長期合併症の軽減。後遺症無き治癒。

【 長期合併症 】
 ・半数以上は、何らかの合併症を持っている。

【 具体的な、長期合併症 】
 ・成長障害、低身長
 ・性腺機能障害:二次性徴、不妊(無事出産した例もあり、その子供に障害は無い)
 ・臓器障害:心臓、肝臓、腎臓、肺 など。治療中の問題。
 ・メタボリックシンドロームの頻度が高いことが、最近わかってきた。
 ・精神心理的問題
 ・二次がん (喫煙は、発ガン率が数倍になる。くれぐれも、禁煙を)
   化学療法だけの場合、治療をしなかった子より1%高い。
   放射線
   移植・・・年を経るにつけ増える傾向。
今 後 の 課 題

【 負担が少なく、治癒率を上げる 】
 ・より適切な層別化
  治りやすい人と、治りにくい人を上手に見分けて、軽い治療、強い治療をする。
 ・質の高い臨床試験 同じことをたくさんデータを取る。
 ・新薬の必要性

【適切な層別化のためには】
 ・データベースの充実。臨床情報の収集。 小児がん登録の推進。
 ・基礎研究の進歩……新薬の開発につながる。
   検体保存事業
   きちんと、同意の取れた検体を保存することが重要。
   (現状は、同意ない検体もある)

【臨床試験:質の高いとは?】
 →エビデンス(証拠に基づいた医療)を作ることができる試験
 ・すぐれたデザイン
 ・倫理的正当性
 ・きちんとした説明同意(インフォームドコンセント)
 ・症例数

【症例数の重要性】
  70% VS 50% 100例:100例 計200例で証明可能
  80% VS 70% 300例:300例 計600例必要
  85% VS 80% 1300例:1300例 計2600例必要

  オーダーメイド医療のために、全国協力、国際協力の重要性

  国内の、研究グループは4つ。
  JACLS:TCCSG:CCLSG:KYCCSG
  症例としては、4:3:2:1の割合

 2000年代 JPLSG が誕生。 2004年に臨床開始。
 JPLSGの臨床登録数は、当センターが1位。

 全国研究において、固形腫瘍分野が少し遅れている。

【 新薬はなぜ必要か? 】
 従来の抗がん剤の組み合わせによる成績向上が、頭打ちになってきた。
 副作用。
 例:グリベック……副作用が少ない。単独では再発するので、化学療法と併用する。
          移植をしないで治せるかもしれない。

 〔ドラッグラグ〕
   新薬の承認が遅れている。

 〔ドラッグラグの原因〕
 ・行政の問題・・・審査体制
 ・製薬会社の問題・・・儲からない(特に小児科)ため、消極的。
 ・医療者の問題・・・労力大だが、報われないため、消極的。
 ・患者さんの問題・・・積極的に、新薬の治験には応じられない。

 〔なぜ治験が必要か?〕
 ・欧米で有効でも、人種別に効き目が異なる。
 ・成人、小児での効き方の違い。

 〔当センター〕
  有利な点・・・症例数が多い。スタッフが充実している。
  不利な点・・・インフラ不整備。

 〔日本での未認可薬剤の一例〕
  ラスリック・・・尿酸を分解して、腫瘍に働きかける。
  クロファラビン・・・難治性ALLの抗がん剤。
  アプレピタント・・・吐き気止め(治療して2~3日後に現れる吐き気に効果的)
  キャスポファンギン・・・抗真菌(かび)薬


質疑応答

「小児がん登録が進まない理由は?」
 →行政がしない。
  登録することで、メリットを施設に還元する仕組みがあれば、登録率は上がる。

「ALL維持療法中ですが、再発の兆候は?」
 →わからない。
 初発と同様の症状でわかる場合もあるが、血液検査でわかる場合が多い。
 維持療法終了後、高熱、紫斑なども、確定要素ではない。
 再発の診断が早くても、遅れても、結果は同じ。

「ブレイクスルー可能性のある薬とは?」
  →クロファラビン

「兄弟姉妹の発がん確立は?」
  →ごく、わずかに高い。

「神経芽腫で、何もしなくて治ったが?」
  →晩期障害は無い。(芽腫は、治療をしなくても治るものがある)

「がん告知の時期は?」
  →基本的に10歳以上の子には告知している。
   幼くしてかかった場合、中学生ぐらいになったら、治療したことを伝えたほうが良い。

「副作用の軽減について」
  →抗がん剤を抑える薬を使う。但し、抗がん剤の効き目が弱まる。
   海外で口内粘膜の回復に効く薬があるが、日本では未認可。

「がんになる要因は?」
  →酵素、遺伝子の異常、風邪をひいた後の免疫異常。
   先進国のほうが多い。病気にかからず成長し、大きくなって、軽い病気のあと発症することもある。
  しかし、1番は偶然。
  ごく一部、がんになりやすい要素を、生まれつき(胎内にいる頃から)持っている子もいる。

「放射線について」
  →放射できる限界量があるので、再発の場合は、照射できる量は少なくなる。

「維持療法中の注意」
  →はしかに感染すると、命にかかわる。
   72時間以内に、ガンマグロブリンを投与する。
   水疱瘡は接触を確認したら、飲み薬で予防できる。
   かかっても治療できるが、接触がわかっていれば、予防薬の効果がある。

「心臓に負担がかかっていることについて」
  →ダウノマイシン、アドリアマイシン、テラノマイシン(アントラサイクリン系)の薬は負担がかかるが、トータル量を少なくしている。
   ユーイング肉腫に関しては、投与量が多い。

「臍帯血移植について」
  →患者の体重が軽ければ、骨髄移植と同じ成績。
   骨髄移植との違いは、ドナーリンパ球輸注ができないこと。
   しかし、リンパ球輸注で治ることはない。

「骨髄以外の再発について」
  →睾丸、中枢神経の再発がある。比較的治りやすい。

「移植について」
  →兄弟で、HLA型が完全一致が、最善。親の場合、5/6一致で移植は可能。


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